本コーナーでは、2009年に続き2010年5月にボルヴィック 「1L for 10L」プログラムの支援先であるマリ共和国の現地視察に同行された、日本を代表する“水の活動家”NPO法人Waterscape代表 野田岳仁氏のレポートがご覧いただけます。野田氏の2009年のレポートとともにご覧ください。

本コーナーでは、2009年に続き2010年5月にボルヴィック 「1L for 10L」プログラムの支援先であるマリ共和国の現地視察に同行された、日本を代表する“水の活動家”NPO法人Waterscape代表 野田岳仁氏のレポートがご覧いただけます。野田氏の2009年のレポートとともにご覧ください。

チャアラ村の子どもたち
奇跡を生み出す井戸になってほしい、そう願って水が吹き出す瞬間を見届けた私を再び迎えてくれたのは、希望に満ちた子どもたちの笑顔でした。
2009年にプログラムの支援によって井戸が掘られたチャアラ村には、手入れの行き届いたキレイなポンプ付深井戸が完成していました。この村は昨年視察に訪れた村の中で最も過酷な環境にありました。約630人の村人が暮らすこの村には3つの伝統的な手掘り井戸しかありませんでした。それは飲用には適さない白く濁った水でした。新しいこの井戸はすでに人びとに変化をもたらしていました。
まず大きな変化として、この井戸の安全な水を飲むことによってお腹を壊す子どもの数が格段に減ったと言います。飲用せざるをえなかったこれまでの手掘り井戸の水は家畜や農業の水やりにまわすことができている、と村長さんは笑顔で話してくれました。この変化は、私の目にもはっきりと分かり、うれしさとともにほっとした思いでした。昨年この村を訪れたときには、子どもたちのお腹が栄養失調のため丸くふくれあがっていたのです。しかし、今年は、明らかにその数が少なくなっていました。実際に昨年言葉を交わした少年のお腹も今年は正常に見えました。

支援によって設置された井戸
さらに重要なことは、村の人びとの意識をも変化させていたことです。この村の課題は、水の問題が子どもたちの健康問題の原因となっていることが理解できていないことにありました。ところが、新しい井戸がもたらす健康的な生活を身をもって感じることにより、水への意識が高まっているように見受けられました。それは、人びとの次のような対応からも明らかでした。まず、古い井戸の水を利用する際は寄生虫やゴミが入り込まないようにフィルターや布を通して利用されていることです。次に、井戸を選ぶ価値基準に水の清潔さが加わったことです。これまで人びとは自分の家から近い井戸を使うことが習慣となっていました。新しい井戸は地下水脈の条件によって村のはずれに設置されたため、古い井戸よりも遠く、水汲みの距離が増えることになりました。それでも、人びとは飲用や調理用には新しい井戸水を選ぶようになったのです。
毎日水汲みをするというある少女は、水汲みの距離が遠くなったことは苦にならず、そのことよりも、水の味がとてもよく、冷たいことを喜んでいました。さらに、将来は大きな家に住んで兄弟によい生活をさせてあげたいと夢を語ってくれました。つまり、経験的な言い方をすれば、昨年訪問したジリジャラ村でもそうだったように、新しい井戸がもたらす健康的な生活は、人びとの意識も明るく前向きに変化させたのです。ジリジャラ村の女性の言葉を借りれば、きっとその変化は「人生を変える」変化とよべるのでしょう。

ドロ村の干上がった沼

干上がった沼につくられた手掘り井戸
今年の視察で最初に訪問したドロ村へは日本を発ってからおよそ100時間かかりました。マリ共和国に入ってから丸2日間1,200kmを超える車移動で向かった先は、これまで見たどの村よりも過酷な環境にありました。
この村では周辺域の遊牧民をあわせると4,000人ほどの人口がいると言います。おそらくは彼らの感覚的には数えきれないほど多くの人が水を汲みにやってくるということなのでしょう。この村に水源は2つあります。伝統的な手掘り井戸1つと大きな沼です。いずれも飲用には適さない水源です。沼は雨期に降った雨が溜まってできたものです。近年、乾季には沼が干上がることが多くなったようです。私たちが訪問した際もすでに干上がっていました。沼が干上がると人びとは底を掘って泥水を汲みだします。1つある村の井戸も枯れることが多く、3〜4時間待って水が湧き出すのを待つのだそうです。つまり、この村では水質の問題以前に、安定利用するための絶対的な水量が不足しているのです。
干上がった沼には無数の木組みの手掘り井戸がつくられています。水を求めてやってくるそれぞれのグループがつくった井戸だと言います。面白いことにそれぞれに所有権が存在していました。この地域に他に水源はなく数十km離れた隣村からも大勢やってくるようです。水を汲んだタンクをラクダやロバに乗せて運ぶ光景も見られました。沼の水を目当てに外からやってくる人への商売もこの村の貴重な収入源でしたが、沼が干上がってしまって経済的にも打撃を受けていると言います。
現地のマリ人によればドロ村のある地域は治安が悪く大変危険な場所だと言います。確かに政府のガバナンスが物理的にも社会的にも届かない地域であることは危機感をもって肌で感じることができました。だからこそ、悩ましい課題がつきまとうのです。一時的な支援ではなく、現地の人びとにとって持続可能で効果的なものにするためには、現地の人びとが自立できる素地と環境が不可欠です。政府のガバナンスが届かない地域だからこそ、支援を下支えする現地の人びとの自立の素地づくり、環境づくりを進めていかなければならないはずです。大変歯がゆい思いですが、この村への支援を見守っていかなければなりません。そして、日本のみなさんも一緒に見守っていただきたいのです。
これまでマリ共和国にもたらした“水の奇跡”は、Volvic 1L for 10Lプログラムを通じた日本のみなさんの参加によるものです。これからも引き続き、マリ共和国の水問題の未来を変えるため、みなさんの力をお借りしたいのです。
NPO法人 Waterscape 代表
1981年岐阜県関市生まれ。清流長良川の水で育ち、10歳から水環境問題に関心を持つ。99年大学入学時に国際青年環境NGOを設立。02年大学を休学し、政府系機関「第3回世界水フォーラム事務局」チーフを兼任。オランダ皇太子ら世界のリーダーと50ヵ国1,500人の若者を集めた「ユース世界水フォーラム」の最高責任者を務め、第6回日本水大賞国際貢献賞受賞。最近は、国内外の水辺を歩き生活者の視点から水問題の解決策を研究し、国連や社会への政策提言活動、企業の社会貢献活動のサポート、子どもたちへのワークショップなどを通じて、水と人のかかわりを次代につむぐ試みを続けている。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。

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